その水溜りの深さは

黒に染まりし者

ある一人の青年がいた。

青年は働くことの意味を理解していなかった。また、理解しようともしていなかった。

働きたくない、それが青年にとってのささやかで、高慢な願いであったのだ。

 

青年は社会へと出た。

どんなに駄々をこねても、社会は彼の願いを聞き入れてくれることはないということを理解していたからだ。

青年には優れた能力は無い。特筆すべき才能も持ち合わせていない。

そして何より経験が無い。

人々の群れと共に生きる為に青年が持ちうる唯一の術は、己より強い個体に付き従い、群れのなかにある更に小さな集合体に属することで安定と保護を受け取ることであった。

しかし、打たれ弱く努力が苦手な青年にとってその一手は最善とは言えなかった。

集合体に属するだけの資格も持ち合わせていなかったのだ。

 

社会に出るのは早かったのだろうか。

俺は何をしているのだろう。

何で俺はここにいるんだろう。

何の為に生きているんだろう。

 

青年の頭に、様々な疑問が新幹線の様なスピードで飛び交っては、消えていく。

 

青年は考えることをやめた。

それから幾分かの月日が経った。

 

青年はついに、そして唐突に群れから飛び出した。

もう一度自分を鍛え直す必要がある。

それは青年が心に秘めていた願いとは、しばらくのあいだ決別し、反対側の道のりを歩くことになる。

それでも青年は、知らず知らずのうちに失っていた空白の時間を取り戻したくなったのだ。

 

青年の旅は続く。

 

~To be continue~